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LEO NECESSARIO

featuringAwa Ito

すべるようになめらかな黒い革に、毒気のあるネイルのプリント。
それは物分かりの良いふりばかりの世界から、一緒に抜け出してくれるようなもの。
そんな財布を人生に携え、ずっと一緒に不良でいたい。

モデルで文筆家の伊藤亜和さんがカメラを通して感じたこと、
まっすぐな言葉で紡いだ寄稿とともに新作「LEO NECESSARIO」をご紹介します。

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「 a piacere 」

指には、割れたアボカドの形をした
シルバーのリングが光っていて、
私はこんなふうに歳をとりたいと思った。

指には、割れたアボカドの形をした
シルバーのリングが光っていて、
私はこんなふうに歳をとりたいと思った。

WALLET BAG ¥56,100 BUY

「どうして指なんですか?」

新作のデザインについてそう尋ねると、ヒロ子さんは答えに悩むようすもなく「どうしようかなって思ってね、こうしてみたの。そしたら、なんだかいい感じだったのよ」と言って、滑らかな黒い革の上にピタッと二本指を乗せた。指には、割れたアボカドの形をしたシルバーのリングが光っていて、私はこんなふうに歳をとりたいと思った

それでもときどき、私の前には突然、
こういう抗いがたい魅力を放つものが
現れる。

それでもときどき、私の前には突然、
こういう抗いがたい魅力を放つものが
現れる。

WALLET ¥45,100 BUY

私がヒロコハヤシのアイテムに出会ったのは、今から2年ほど前のこと。友人と深夜まで飲み歩き、お土産にジンのボトルを頂いたある夜、帰宅してカバンの中を見てみると、蝋で固められていたはずのボトルの蓋がいつのまにかゆるんでしまっていた。当然、カバンの中は大洪水。カバンに入っていたものはもれなく水浸しならぬ“ジン浸し”水浸しならぬ〝ジン浸し〟になってしまっていて、それまで使っていた財布はあえなくお役御免ということになった。

毎日ロクに働かず遊び回っていたから、きっとバチが当たったのだろう。なかば恨めしい気持ちで新しい財布を物色していると、ふと深い青色の財布が目に留まった。

深い森のようなデザインの中心には、こちらをジッと見つめる一羽のフクロウ。シュールでかわいらしいその財布には、これまた愛らしい小さな持ち手が付いていた。「GUFO(グーフォ)」と名付けられたそのアイテムに、私はたちまち一目ぼれした。

大人の持つべきもの」とは、一体どういうもののことをいうのだろう。毎日お揃いの制服を着て過ごさなければならなかった子供時代。私たちは長い時間を耐え、ようやく自由になったというのに、そうなったころには、人と違うものを選び取ることにすっかり臆病になってしまっている気がする。

なんとなく選んで、なんとなく身につける。私たちは大概、そんなふうにして日々を過ごす。それでもときどき、私の前には突然、こういう抗いがたい魅力を放つものが現れる。そういうものは、私自身も知り得ない奥深くで、私がなにを思い、なにを信じているか、私に教えてくれるのだ。

今回の仕事は、おそらく私のモデルとしての最後の仕事になる。モデルという仕事を始めて10年ほど経ち、30歳近くにもなれば周りのモデルは年下ばかりになってきた。仕事はどれも楽しく、やりがいもあったが、そろそろ他にできることも探したい。今振り返れば心のどこかでは、いつも何か違うものを欲していたような気がする。私はなにを欲しているのか、私はこれからどうなっていきたいのか。正直、私自身もまだよく分からない。

デザイナーのヒロ子さんは、想像していたよりもずっと柔らかい雰囲気の人だった。長いホワイトヘアーを揺蕩わせて静かに佇んでいる彼女は、東京の一等地にいるとは思えない自然さでそこにいた。周りの若いスタッフとも友人のように話すようすを見て、何日も前から私の中に居座っていた緊張も、口の中のラムネのようにみるみるほぐれていく。

本当になんでもできるだろうか。
数えきれないほどの「向いてないこと」の中から、
いつかたったひとつだけでもしたいことを見つけたい。

本当になんでもできるだろうか。
数えきれないほどの「向いてないこと」の中から、
いつかたったひとつだけでもしたいことを見つけたい。

WALLET ¥45,100 BUY

見せていただいた新作は、いずれも夜の静かな水面のような美しい黒い革で作られていて、中心部分には大胆に中指と人差し指をかたどったデザインがあしらわれている。アイテムをもってカメラの前に立つと、不思議なくらいポーズのアイデアが湧き出て、自分の中でエンジンがかかった。

私は我の強い性格で、調子に乗ると身につけているアイテムより前に出ようとしてしまう。服やアクセサリーを美しく見せるモデルという仕事において、この性格は致命的である。やっぱり私はモデルに向いてない。だけど楽しい。モニターに映った写真のデータを見ながら、ヒロ子さんは嬉しそうに「まさに大人の不良ね!」と言った。

私をつまらなくしているのは私自身。
遊び続けよう。

WALLET BAG ¥56,100 BUY

「これからしたいことはある?」と尋ねるヒロ子さんに、私はもじもじしながら「よくわかりません」と答えた。彼女はそんな私に「これからよ。なんでもできるから、まだ」と何度も言う。本当になんでもできるだろうか。数えきれないほどの「向いてないこと」の中から、いつかたったひとつだけでもしたいことを見つけたい。向いているか向いてないかなんて、考えるのはそれからでもいいのかもしれないと思う。

シャッターが次々と切られ、周りからほめそやされているうち、自分の主張が強くなってしまうのを感じつつも、今日はそれが決して悪い結果にはなっていないような予感がした。最初にグーフォを手に取ったときの感覚を思い出す。世界にたったひとつ、二つとない私の生き方に寄り添ってくれるようなもの。物分かりの良いふりばかりの世界から、私の手を引いて一緒に抜け出してくれるもの。遊び回ったらバチが当たるなんて、一体誰が私に教えたのだろう。私をつまらなくしているのは私自身。遊び続けよう。

今日も財布のあいだに口紅を挟んで外へ出る。ジンに溺れるような夜も越えて、ずっと一緒に不良でいよう。

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伊藤 亜和

1996年横浜市生まれ。文筆家。学習院大学 文学部 フランス語圏文化学科卒業。noteに掲載した「パパと私」がX(旧Twitter)でジェーン・スー氏、糸井重里氏などの目に留まり注目を集める。
著書に『存在の耐えられない愛おしさ』
(KADOKAWA)、『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)がある。

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